由禧(よしき)先生
恋人たち
2025/12/12 22:46:33
タロットの「恋人たち(Lovers)」と聞くと、
多くの人はまず恋愛を思い浮かべる。
両想い、運命の出会い、情熱的な関係。
確かにそれも、「恋人たち」の一側面ではある。
でも、タロットの流れの中で見ると、
「恋人たち」は単なる恋愛カードではない。
このカードは、
人生の分岐点に立たされた人のカードだ。
「恋人たち」の直前にあるカードは「法王」。
法王は、
社会の中でどう振る舞うか、
何が正しいか、
どの価値観に従うかを教えるカードだ。
つまり、
「型」「役割」「教え」「常識」。
多くの人はまず、
その枠の中で生きることを学ぶ。
けれど、
その正しさを十分に生きた人の前に、
次に現れるのが「恋人たち」。
「恋人たち」が問うのは、
「正しいかどうか」ではない。
それを選んだとき、呼吸はできているか
心と行動は、同じ方向を向いているか
誰かの期待ではなく、自分の内側から選んでいるか
「恋人たち」は、
“選択”のカードなのだ。
このカードに描かれている男女は、
ただ恋をしているわけではない。
背後には天使が立ち、
高次の視点から静かに見守っている。
それは、
「感情」ではなく
誠実さと一致を選べるか
という問いでもある。
だから、
派手な恋愛の物語がなくても、
人生を大きく変える情熱がなくても、
「恋人たち」は訪れる。
むしろ、
正しさに守られてきた人
役割をきちんと果たしてきた人
間違わないように生きてきた人
ほど、
このカードの前で立ち止まる。
「恋人たち」とは、
「誰かを愛した証明」ではなく、
自分を裏切らなかったかどうか
を問うカードなのだ。
そして私は、
まさにその問いの前に立っていた__
◇正しさに守られたけど、息ができなかった話
「正しさ」は、確かに私を守ってくれていた。
大きく外れることもなく、致命的に失敗することもなく、
それなりに評価され、それなりに役割も果たしてきた。
母として、妻として、働く大人として、
“間違っていない選択”を積み重ねてきたと思う。
でも、ある時から気づいてしまった。
__息が浅い。
苦しいほどではない。
倒れるほどでもない。
ただ、深呼吸ができない。
正しいはずなのに、
なぜか身体が少しずつ硬くなっていく感覚。
守られているはずの場所で、
私はだんだん自分の輪郭を失っていった。
◇何かを「愛した」わけじゃない
「恋人たち」と聞くと、
情熱的な恋や、運命的な出会いを思い浮かべるかもしれない。
でも私の場合、
「これが好き!」
「これを愛している!」
と胸を張って言える対象が、
はっきりあったわけじゃない。
誰かに強く惹かれたわけでもない。
人生を賭けたい夢があったわけでもない。
ただ、
続けることができない__
その場所に居続けると、何かが壊れる__
そんな感覚だけが、静かにあった。
それは“愛”というより、
まだ名前のついていない感覚だった。
◇でも、違和感だけは裏切れなかった
はっきりした理由はなかった。
説明できる言葉もなかった。
それでも、
違和感だけは無視できなかった。
「みんなやっているから」
「安全だから」
「正しい選択だから」
そう言われるたびに、
心の奥で小さな音がした。
カチ、カチ、と。
何かが合っていない音。
大きな反抗をしたわけじゃない。
劇的な決断でもない。
ただ、
『違和感を正当化しないこと』
それだけを選び続けた。
◇それが私にとっての「恋人たち」
誰かを選んだ、というよりも。
何かを勝ち取った、というよりも。
私はただ、
『自分を裏切らない方』を選んだ。
それが、私にとっての「恋人たち」だった。
愛は、
ドラマチックな形だけをしているわけじゃない。
声を荒げない選択。
静かに距離を取る選択。
説明できなくても、離れる選択。
そのすべてが、
私にとっては“愛に基づいた選択”だった。
◇今も選択は続いている
一度選んだから、終わりではない。
「恋人たち」は、ゴールじゃない。
今日もまた、
小さな選択がやってくる。
安心を取るか。
納得を取るか。
評価を取るか。
静かな呼吸を取るか。
正しさを選ぶことも、もちろんある。
でももう、
息ができない場所には戻らないと決めている。
それが、
今も続いている私の「恋人たち」
由禧(よしき)
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