由禧(よしき)先生
愛に試される者、愛を超える者
2025/08/27 08:17:33
それは古より繰り返されてきた、月と星の物語──。
新月の夜、月の女神は地上を見下ろしていた。
深い愛を交わしてきた二人が、言葉の刃を交わし、心を裂かれるように離れてゆく姿を。
女は「現実の守り手」。
大地に根を張るように、確かな基盤を築き、未来の家を夢見る者。
男は「感覚の旅人」。
風に吹かれるように、自由な発想で語り、まだ定まらぬ未来を追いかける者。
二人は同じ蠍の月を宿し、互いの魂を深く求め合っていた。
だが、その愛の深さゆえに、言葉は刃となり、新月の闇に溶けていった。
その夜、星々は沈黙していた。
けれども一人の巫女が、神からの言葉をその身に降ろし告げた。
「恋人たちよ、今は裁きの時。
星は逆さに輝き、道を見失わせる。
だが恐れることはない。
三つの刻を過ぎたとき、川の流れは澄み、未来は再び開かれるであろう」
女は涙を拭き、新しい土地へと歩みを始めた。
大地の仕事が彼女を待っていた。
彼女は自らの糧を得て、揺らがぬ基盤を築き始めた。
そして心の奥に問いかける。
「私は誰と、どんな未来を紡ぎたいのか。
ひとりの旅人を待つのか、それとも新たな伴侶を迎えるのか」
男もまた、遠い地で新しい挑戦を始めていた。
彼の前には未知の海が広がり、未来の船出が迫っていた。
けれど彼の心の奥底には、ひとりの女の姿が消えずに残っていた。
彼にとってその女は、鍵のように扉を開く存在だったからだ。
星々は静かに見守っていた。
復縁の道も、新たな出会いの道も、女の選び取る未来次第。
房の宿を生まれに持つ彼女には、まだ多くの出会いと縁が約束されている。
新月から満ちゆく月のように。
別れは終わりではなく、光を迎えるための始まりだった。
やがて月は少しずつ膨らみ、上弦の月が夜空に輝いた。
女は新しい土地で働き始め、日々の糧を得ながら、大地に根を下ろす術を覚えていった。
彼女の眼差しは、前よりも力強くなっていた。
その頃、旅人の男は新しい海へ船を漕ぎ出し、多くの試練に出会っていた。
だが彼の心には、常にあの女の姿が映っていた。
「理解してくれないならもういい」と言い残した言葉が、
自らの心を刺す棘となり、夜ごと眠りを妨げていた。
満月の夜、女が川辺に立つと、星々が再び歌った。
「選ぶのはおまえ自身。愛の鍵を再び差し出すか、それとも新たな扉を開くか」
その時、旅人の男が姿を現した。
以前より少しやつれながらも、瞳には決意の光が宿っていた。
「もう一度、君と未来を築きたい」
彼の声は、風に揺れる炎のように震えていた。
女は静かに彼を見つめた。
心にはまだ迷いがあった。
だが、彼女は知っていた。
かつての自分なら、ただ愛に縋っただろう。
けれど今は違う。
「私は、私の未来を選ぶ」
その言葉とともに、彼女の胸に二つの道が広がった。
一つは、彼と共に歩む道。
もう一つは、新たな伴侶を迎え、さらに広がる未来へ進む道。
星々は囁く。
「どちらを選んでも、おまえの道は光へとつながる」
女は深く息を吸い、月明かりの下で一歩を踏み出した。
それは「愛に試されし者」が「自らの女帝」となる瞬間であった。
由禧
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- 女性
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